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春の陽射しが暖かく感じる季節だ。
学校を出ると、心地よい風が吹いていて、ポカポカした陽気が気持ちを和ませた。
……青華男子専門学校の校門の前には、小さな公園がある。
小振りの桜が数本咲いている、遊戯物もブランコと滑り台くらいしかない公園だ。
辰実はその公園に入ると、入り口に一番近いベンチに腰を掛け、瑛一を待つことにした。
暖かな春の陽射しの中で単語帳をパラパラとめくりながら勉強をしはじめる。
やわらかな風が吹く、リラックス出来る時間が流れた。
「ちょっと、離して!」
不意に聞こえた大きな声。
辰実はビクッとして、声のした方――公園の木々の間を見ると、色白で背の低い女の子が目付きの悪い男に細い腕をがっちりつかまれている。
……見るからに悪そうな男の顔だ。
「嫌だったら!」
女の子は叫ぶ。腕を振りほどこうと必死な姿が見える。
辰実の目には『しつこいナンパに困る女の子』の図にみえた。
茂みの影に隠れて事の成り行きをみていたが、『ここで助けなきゃ男じゃねぇ!』と思い、立ち上がった。
辰実は【男として過ごす】と決めた時に、【女の子を守る事】を信念としていた。
今、目の前で起きている事は辰実の信念に引っ掛かったのだった。
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