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目付きの悪い男と、小柄な女の子の間には、先程までの険悪なムードはなくなっていた。
一体なんだったんだろうと辰実が二人に疑問を持っていると、
「和美(カズミ)!」
と、聞き覚えのある声がした。
顔を向けると、瑛一が嬉しそうに笑っている。
和美と呼ばれたその女の子も笑顔で返す。
「瑛一くん! 久しぶり」
「どうしたんだ? こんなとこで」
「たまたま。高校の帰り」
瑛一は、和美と呼ばれた女の子と仲よさげに話している。
「おぅ。瑛一!」
目付きの悪い男も、瑛一に話しかける。
「……知り合い?」
辰実は瑛一に聞く。
「和美の兄貴」
「え?」
似てない兄弟だ。……って変な男にからまれてたわけじゃないのか。辰実は脱力感を覚えたが、すぐに慌てて頭を下げた。
「すみません! 俺なんか勘違いして」
あそこで転んでなかったら、間違いなく勢いにまかせて柔道技を披露していたであろう。
「変な男にからまれてると勘違いしたんやろ?」
和美の兄は、まるでそう見られるのが慣れているかのように聞いてきた。
「……はい」
辰実は失礼だと思いながらも本音で答えた。
「和美と一緒にいると大輔(ダイスケ)さんが兄貴とは到底思えないっすよね~」
「やかましい!」
瑛一の軽口に大輔は返す。
「あれは誰が見ても【か弱い女の子に無理やり迫る悪い男】って感じでしたもんね」
瑛一は辰実の心境にピッタリな表現をした。
でも見てたんなら教えてよ! と、言い返そうと辰実が瑛一を見上げると、
「それにしてもタツ、何であんなおいしいことすんの? あそこで転ぶか、フツー?」
と瑛一は辰実の肩を軽くたたき、笑い始めた。
こっちは必死だったんだよ、と思い、辰実は口をとがらせる。
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