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和美と大輔は、家の引っ越しの事でもめていたようだった。
二人の両親は仕事の関係で大阪に住んでいて、和美は大輔と二人暮らし。
大輔は今年の四月に大阪近辺に仕事が決まった。
ここから大阪までは新幹線で三時間。通うのは少し厳しいということで、大阪で家族一緒に住もう。という話を巡って口論していた。
「だから、一人で暮らせるってば! せっかく入学出来たし、友達もいるから離れたくないの!」
和美が大輔に訴えると、
「女の子を一人おいて行けるわけないやろ!」
と、大輔も引かない。
「まぁまぁ大輔さん、俺もご近所さんだし、何かあったら家に来てもらえば何とかなるっしょ?」
瑛一がフォローするが、信用はされていないようで、すぐさま攻撃を受ける。
「そのお前が危ないんだ! 俺のいない隙に和美に何する気だ!?」
「何もしませんよ」
「その目付きが信じられん」
大輔の矛先が瑛一に変わり……話はおわりそうにない。
ただ、答えは出てるんじゃないか。と辰実は思った。
一つ息を吸い込み、
「あの、僕が入り込んでいい話ではないと思うのですが……」
と穏やかに切り出した辰実を、みんなが一斉に見た。
「大輔さん、和美ちゃんがこの地を離れたくないって言ってるなら、尊重してあげるべきじゃないですか? 確かに心配は心配ですけど、一人暮らしする事で色々見えてくるものもあると思うし」
現に自分も一人暮らしをする事で、親の有り難み、家族の温かさが分かったことを辰実は思って伝えた。
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