お好み焼き

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   大輔を見送り、和美は二人のほうへ向き直った。 「ありがとう。瑛一くん、えっと……」  和美は、辰実の顔を見て首をかしげた。  そっか。名前言ってなかったな。と辰実は思い、背筋を伸ばす。 「前島辰実です」 「辰実くんのおかげだよ」  そう言って和美はかわいらしく微笑んだ。 「役に立ててよかった」  にこっと辰実が微笑み返すと、和美は一瞬目を見開き、照れ臭そうにうつむいた。  ところで、と瑛一が割って入る。 「オレら今からお好み焼き食いに行くけど、和美も来るか?」  和美は、誘いに乗りたかったが、まだ大輔と話さなければいけない事もあり、首を振って遠慮した。 「じゃあ行くか、タツ。だいぶ時間ロスしたけど」  瑛一は、公園内の時計に目をやった。  辺りを見ると、夕焼け色に染まっている。 「あ! じゃあね! 瑛一くん、辰実くん。今日は本当にありがとう!」  そう言って和美は背中を向けて走って行き、公園を出ると後ろを振り返った。  歩きだした二人の、瑛一より一回り小さな辰実の後ろ姿を、見えなくなるまでずっと眺めていた。
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