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瑛一に連れられて歩いてくると、お好み焼き【じゅうじゅう】とかかれた店の前に来た。
住宅街にあるお好み焼き屋は、近所の人しか分からないような場所に、ひっそりとたたずんでいた。
「ここだよ。外見汚いけど中はきれいだよ」
褒めているんだかどうなのか分からない瑛一は、赤いのれんをくぐり、ガラガラと引き戸を開けた。
「らっしゃい!」
「いらっしゃいませぇ」
店内に威勢のいい声が響く。
夫婦でやっているようで、辰実の両親と同じくらいの年代の二人が、人の良さそうな笑顔をこちらに向けた。
店内はこじんまりとしているが、所々に花が飾られており、掃除も行き届いていて、清潔な雰囲気を感じさせる。
「らっしゃい! 瑛一」
店長らしきおじさんが威勢よく声をかけた。
「どうも! 三日ぶり!」
瑛一は顔馴染みらしく、片手を挙げて答えた。
「この間の話考えてくれた?」
店長らしき男が笑いながらカウンターから客席に出て来て聞く。
「いやぁ。俺も何かと忙しいから。だから代わりにやってくれそうなやつを連れてきた」
と、瑛一は辰実の肩に手を置き、
「バイト探してるんだって」
とニッと歯を見せて言った。
顔が近っ……って言うかバイト探してるって、俺にやれって事か!? と、だましたな。と言わんばかりの目線を瑛一に辰実は向ける。
「いや、ほら! タツは一人暮らしだからさ。何かバイトしないと生活できないんじゃないかな~と思って」
瑛一は、しれっと言い、それを受けて店長らしき男も続けた。
「うちは時給九百円だすぞ。休日なら千円だ」
「今バイトの子が辞めちゃってすごく困ってるのよ」
ふっくらしたおばさんも続ける。
時給九百円……ってかなり高い。
辰実の心は揺らぎ始めた。
実際、辰実は、バイトをしないとなぁと思っていたし、ここなら学校から歩いて十五分くらいだから通勤にも便利だ。
夫婦が熱く見守る中、辰実は顎に当てていた手を下ろし、にっこり笑って、よろしくお願いします。と頭を下げた。
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