三年前の出来事

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   とりあえず、女の子の家が近くにあるというので案内してもらい、瑛一は家に寄らせてもらうことにした。  瑛一の自転車は飛び降りた際に、ガードレールにぶつかりパンクしていた。  海沿いの道から女の子の家まで自転車を引きずりながらゆっくりと並んで歩く。  穏やかな波の音と夕日の染まる海が絵画のように綺麗だ。  瑛一は女の子の顔を覗き込む。 「名前は何ていうの?」 「……渡辺辰実(ワタナベ タツミ)。もうすぐ前島辰実になるけど」 「え? 離婚ってこと?」 「ううん。再婚……」  女の子は静かに頭を振った。 「再婚か。それじゃー、おめでたいね」  あっけらかんと瑛一は言う。 「……そうだね」  明るく言い放つ声に、辰実は少し救われた。  ……辰実自身はおめでたいとは思っていなかったのだから――。
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