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瑛一の言葉に涙があふれ出た。後から後から涙はとめどなく流れ出す。
瑛一は辰実が落ち着くまで、やさしく頭を撫でてくれた。
二人しかいない家に、辰実の泣きじゃくる声が響く。
……しばらくして、辰実は口を開いた。
父親の死と、母親の再婚。父が死んで間もないのにすぐに再婚話が出た事。
母の幸せと分かってはいても、亡くなった父親に対しての申し訳なさ、新しい父親に冷たく当たってしまうこと、そのせいで母親にも悲しい思いをさせていること。
つたない言葉だけど一生懸命伝えた。
「そっか……辰実ちゃんはやさしいんだね」
辰実の目に溜まった涙を瑛一はやさしく指で拭い、瑛一は伝える。
辰実は目を瞑って首を振った。
やさしくなんかない。ただのワガママだと自分でも分かっている、と。
自分がしていることは、結局母親を傷つけている事だ。
そう思い、涙が止まらない辰実を、瑛一は引き寄せた。
辰実の居場所がまるでそこにあるかのように、瑛一の腕の中に辰実はスッポリと収まる。
辰実はうつむいていて、どんな表情だかは分からないが、瑛一は声をかけた。
「辰実ちゃんはどうしたいの?」
私はどうしたいんだろう。どうしたらいいか分からない。
混乱する辰実に、瑛一は話を続けた。
「辰実ちゃんがこうしたい、こうなりたいってことを、俺は分かった気がする」
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