三年前の出来事

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   辰実はせめてものお礼にと、たくさんの手料理を作った。  瑛一は昨晩から何も食べていないのもあり、出される料理を次々と平らげる。  食べ終わった後、ソファによりかかりながら二人で食後の紅茶を飲んだ。  瑛一は膨れた自分のお腹に手を当てると、 「うまかった! ありがとう。ところで、昨日眠れた?」  と、問いかける。 「うん。瑛一くんのおかげ」  と、辰実は素直にうなづいた。 「俺はなかなか眠れなかったよ」  瑛一はわざとらしく目をこすった。 「えっ、ごめん。一人で気持ち良く寝ちゃってた」 「まぁ俺も気持ち良かったのは良かったんだけどさ」  瑛一の腕の感触を思い出し、辰実は顔が熱くなるのを感じた。 「辰実ちゃんの胸が」  瑛一の発言に、辰実は飲みかけた紅茶を吐き出した。  いつ触ったの!? と顔を真っ赤にし、 「バカ!」  と叫ぶ。 「冗談だよ。汚ねー辰実ちゃん!」  瑛一は腹を抱えて笑いだした。  辰実は頬を染め、腕を組んだ。  そんな辰実に笑いながら瑛一は話しかける。 「そういえばお母さんとか家族の人は家にいないの?」  昨夜からこの家に住んでいる人をみていない。と思い、瑛一が聞く。 「出張。母さんは今日の夕方には帰ってくるよ。兄弟はいない」  まだ顔が赤い辰実は瑛一と目を合わせずに答えた。 「怒った?」 「……」  恥ずかしくて目をそらした辰実の顔を、瑛一が心配げに覗き込み、 「……もう一回、キスしていい?」  と照れくさそうに伝える。  辰実は戸惑いつつも赤くなりながら、コクンと小さくうなづいた。  了承をもらった瑛一は、ゆっくりと形のいい唇に重ねた。
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