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「前島辰実くんって何て呼ばれてたの?」
入学式を行う体育館に行く途中で、瑛一が聞いてくる。
「わ……俺は、そのまま辰実だよ」
思わず“私”と言いそうになって辰実はこらえた。
危なかった。今度から“俺”をくせ付けるために、“俺”と思おう。と心に決めて。
……辰実は名前を聞いて、瑛一が三年前の事を思い出してくれるかも!? と期待したけど、スルーされて少しさみしさを感じていた。
『瑛一にとって、俺と出会ったことは過去の事で思い出としても存在しないんだな』と思っていると、瑛一が口を開いた。
「辰実って……」
瑛一の言葉に、今度は思い出してくれたのかな? と思い、うつむき気味だった顔を上げて辰実は瑛一を見た。
「長いよね」
「は?」
「よし! 俺はタツって呼ぼう。俺のことはエイイチって呼んで」
「エイイチの方が長くね?」
ヒロがボソッと突っ込んだ。
瑛一は分かってないなぁとつぶやく。
「だって俺の名前を縮めたら“えい”だぜ? 絶対おまえら陰で『魚かよ!』とかつっこみ入れそーじゃん」
瑛一は自慢げに自分の推理をひけらかす。
「言わねーよ!」
ヒロと同時に辰実は突っ込み、いたずらっ子のような顔で笑う瑛一を置いて、体育館へ足早に歩き始めた。
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