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花が咲き誇る草原に、目が覚めるような美しい少女がいた。金糸で作られたかのような髪が、風に吹かれている。瞳は深い翠の色をしていた。
少女は花で何かを作っていた。少女の背後には、黒いマントを着た黒髪の少年が、少女を睨み付けていた。
「ソフィア、こんな所で何の用だ?」
「あなたに話がありましたの。ここなら、誰も邪魔しませんわ」
ソフィアは手元から目を離さずに答えた。
「ねぇガメンナ、ここから出て行きたいと思いませんか?」
ガメンナは警戒するように目を細めた。
「……思う。思うが、何故お前がそう思う?お前は祝福されている。このアルスレッドでは、光の神の落とし子と言われ、最高の待遇を受けているじゃないか?」
「それが嫌だと言いましたら?」
ソフィアは太陽ような温かな笑みを浮かべ、ガメンナを見上げた。
「私は、新しい世界に行きたいのです。閉じられた世界に居たくないのです」
「なら、他の奴に言え。間違えてここに生まれた俺に言うな」
ガメンナはソフィアから目を反らした。ガメンナは闇の神に創られた。そして、ソフィアは光の神に。
相対する二人は、それでも何時しか愛し合っていた。許されないこと。許されるはずのない絆。
「あなたに言いますの。私はあなたを愛していますから。あなたが私を愛していますから」
ソフィアは立ち上がった。
「共に、生きられる世界を創りませんこと?」
「神の真似をするのか?」
ソフィアは微笑んで、ガメンナの頭に花の冠を乗せた。
「私たちは、唯一、神に生み出され人の世に生きる者。もしも、私たちに続く者が居るならば、ここはきっと居心地は良くないでしょう?それに、私もここは居心地が良くありません」
ソフィアの笑顔を、ガメンナはいとおしい思った。神は愛する心を与えなかったのに、ガメンナの中に愛する心は生まれていた。
「お前がそれを望むなら」
ガメンナは、ソフィアの手の甲に口付けを落とした。それが、全ての始まりだった。
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