~回顧~

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それは全身に返り血を浴びながら母の四肢を千切っていた。その鈍い音が蒼の耳にこびりつく。側には父の身体と頭が離れ離れになっていた。真っ白な部屋の半分以上を赤黒くしていた。地獄絵図だった。 蒼は両親がああなって悲しいというよりも不快感が押し寄せてきて吐瀉(としゃ)した。 その音でようやくそれが母を捨て、振り向いた。 「そ…んな…」 蒼は信じたくなかった。兄がベッドにいないので薄々感ずいていた。いや、後ろ姿を見た時から知っていた。蒼が見間違う筈がない。ずっと追いかけてきた兄の背を。 乖の両の眼は其々あらぬ方向を動き、蒼に視点を合わした。その眼は充血していた。 「うわあぁぁ!!」 逃げようとしたが動けなかった。それでも逃げようとして腰が抜けた。 乖が咆哮し涎を垂らしながら蒼まで一歩で接近し右腕を掴んで壁まで押しやった。
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