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壁の固さに呼吸が止まる。乖が蒼の右の二の腕を握り潰した。自分から出たとは思えない不快な音が響く。
「あ゛ー―――」
乖のもう片方の血まみれた手が蒼の眼前に迫る。その時、走馬灯が確かに見えた。兄との楽しい思い出が頭の中を駆けていく。ここでやっと感情が現状に追いつき自然と涙が溢れてきた。
「兄ちゃん…」
蒼の心から振り絞った声に乖の手が動きをやめ、蒼を解放した。
「蒼…」
乖の眼から赤みが消えていた。しかしその瞳は何処か哀し気であった。
「兄ちゃん」
「ごめんな」
乖の顔に苦悶が浮かび手が震え蒼に伸びようとするのを必死に留めていた。眼も徐々に充血し出していた。
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