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「……どうぞ、お上がりください」
「ありがとうございます」
少女の住居は、本当に直ぐ近くに在った。
昔から評判の良い老舗の呉服屋の傍に、独りで暮らしているらしい。
それも狭い長屋などではなく、若い女性の独り暮らしにしては広い屋敷である。
きっと彼女は大店の娘か何かで、家族は出払っているのだろう――と、青年は勝手に想像していた。
家に入るなり、彼女は着替えの着物を青年に渡して外方を向く――と言っても、特段気遣って明後日の方向を向いた様子でもなく、単に自分のやりたい事をする為という風に、何か探し物を始める。
彼女にとって他意は無いのだろうが、その間の会話の無い空気は重苦しく思えて、話し好きの青年には堪え難い物だった。
「……あの、凄いですね」
「……何がです?」
「お若いのに、こんなに良いお宅にお一人で……。
ご家族はお出かけですか?」
「家族なんて居ませんよ」
彼女は窓の外を見つめながら、感情の起伏の感じ取れない声で呟く。
「すみません、不粋な事を……」
「謝らなくて良いですよ。どうでも良い事ですから」
少女はまた抑揚の無い声で答えると、吐息をついた。
「着替え、終わりました?」
「え、ええ……」
やはり全く気遣いが無かったという訳でもなかったのだろうか。
少女は一応断ってから青年の方を振り返ると、考えつつ口を開いた。
「……お武家様、妙に礼儀正しいですね。私より年長でしょうに」
「敬語は、昔からの癖ですから……」
「ふーん……。私、貴方のような人斬りは初めて見ましたよ」
「自分でも思います。こんな中途半端な侍は、他に居ないだろうって」
青年は自嘲気味に笑ったが、そこで少女は訝るように眉間に皺を寄せた。
「お武家様は……もしかして、壬生狼の?」
「ははは……やっぱり解りますか……。京の人には嫌われていますしね……」
青年が頭を掻いて苦笑すると、少女は首を右に左に振った。
「私は、攘夷だ何だと出来もしない事を語る過激派より、壬生狼の方が余程好ましく思えます」
「壬生狼が、好き?」
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