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図書館の中で本を読み耽っていた。 「タバコ吸いたい……」と思ったが、四月一日に図書館は全館禁煙になり、外で吸わなければならず、彼は吸いながら本を読むのを嗜好していた。   しかも、彼はチェーンスモーカーだ。   「仕方がないか……」   とぼとぼと一階を降り、自動ドアを抜け外へ出た。タバコに火を付けて、辺りを見回すと彼と同じような人達が五人いた。 五人の中の一人の女性が、横を通抜ける。香水の匂いが辺りに春を誘うが、彼はその女性を気になった。   どこかで見た事がある気がした。   タバコを灰皿にほうり込み、女性の跡を付ける。これではストーカーじゃないかと思いながらも気になりそんなことどうでもよい。   三階の途中で女性が振り返り彼を見て微笑んだ。   「あなたに素晴らしい世界を与えます」   「素晴らしい世界?」   彼はピンと来ないので問い返した。   「はい。行きますか?」   「素晴らしい世界ね……。行ってみたなあ」   「この階段を昇れば素晴らしい世界への扉が開かれます。さあ、行ってきなさい」         その後、彼を見た者は誰一人いない。
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