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その後は大した会話もなく、ただぼーっと二人で空を見ていた。
何かが思い出せなくて。
あの空に大切な何かを忘れてきたようで。
2時限目終了のチャイムと共に、立花は教室へと戻っていった。
もう、関わることもないさ。
そういい聞かせることにする。
生きてる次元が違うんだもの。
夕方近くになって、風が止んだ。
暑さに耐えきれず、場所を移すことにする。
屋上からの階段をゆっくりと降り始めると、下から見覚えのある姿がこちらを見上げていた。
「雫月っ♪学校来るなんて珍しいじゃん。聞いてビビったし」
短く立てた赤い髪。
眉に開けたピアス。
七瀬一哉(ナナセカズヤ)…嫌な奴に出会ってしまった。
最近しつこいくらいに付きまとってくる。
「別に。気が向いたから来てみただけ」
「そー言うと思った。みんな下で待ってんだぜ?俺らも行こう」
そう言って私の肩に手を回す。
あーうざい。
思いっきり払い除けて、
一人で階段を降り始めた。
「ひでぇゃ」
ヘラヘラ笑いながら後ろを着いてくる。
来るなよ。
私は誰のものでもない。
縛られるなんて、真っ平ごめんだ。
昇降口には、いつもつるむメンバーが集まっていた。どこに行こうか、何をしようか。
いつも通り、そんな話。
下校の時間。
他の真面目な生徒たちは、私たちを横目に避けるようにして帰って行く。
「ぁ…」
そんな中に、例の眼鏡を見つけた。
立花だったよね?
不意に目が合う。
暫くの時を近くて遠い距離を隔てて見つめ合う。
一緒にいる友達と何か話していると思ったら、彼は絡んだ視線を慌てて背けた。
それがちょっと腹立たしく、悲しく感じたりもする。
まぁ仕方ないかな。
仲間の姿を見やる。
色とりどりの頭に、思い思いの格好。
制服すら着ていない奴もいる。
社会のはみ出し者ってやつですか。
なんとなく不愉快だった。
「あたし、帰るわ」
後ろを向いてひらひらと手を振りながら、その場を後にする。
えーっとか何とか後ろから聞こえてくるけど、気にしない。
私は私の好きにするさ。
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