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扉から入って来たのは、今朝の眼鏡君だった。
人が来るのは初めてだったから、しばらく黙って様子を伺うことにする。
「なんか良いなぁ~」
何をしに来たのだろう?
こういうタイプは、本来なら教室で黒板と睨めっこしているはずだ。
思いがけない来客者にほんの少し興味がわいた。
キョロキョロとしながらはしゃいでいる姿がちょっと可愛らしくて、声をかけてみる。
「うるさいんだけど」
誰もいないと思っていたのか、驚いて彼は振り返った。
「どこ見てんの?バカ?」
やっと私の姿を確認したらしく、視線が絡む。
「ぁ…す、すいません…」
彼は急に赤くなって俯いた。
チラチラとこちらを見上げてくる。
顔が明らかにこわばっていた。
沈黙が流れる。
不良とか思って、怖がってるんだろうなぁ。
ま、その通りだけど。
「…サボってたんですか?」
は?…見れば分かるじゃん。
マヌケな質問に呆れて溜め息が漏れた。
「悪い?」
「ぅ…いえ…」
これ以上バカなコト言うなとでも言わんばかりに、睨み付けてやった。
目鼻立ちの整った顔だった。
風に泳ぐ柔らかそうな髪は、日の光に当たって明るく輝いた。
何かが確実に捉えられた。
懐かしくて熱いものがが胸に込み上げてきた。
この時はまだ何も分からなかったのだけれど。
引き返しなさい。
ここはあんたの来る所じゃないよ。
そういう意味を込めて睨んだつもりなのに、性懲りもなく居座り続ける眼鏡君…
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