1 隣人

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「すみません、里見さん」  ノックの音と共に、吉沢の声。  ドアを開けると、当然のように冴えない顔があった。 「あら、どうしたの?」   昼も過ぎた頃、テレビも下らないワイドショーかつまらないドラマぐらいしか流さない時間だ。  普通のサラリーマンなら仕事に出ているはずのこの時間、この冴えない男が家にいることはもうみんな知っている。 「お醤油を、貸していただけませんか?」  随分と所帯じみた用件。 「いいわよ。とりあえず入んなさいな」 「はい、すみません」  しきりにペコペコしながら部屋に上がる吉沢は、やっぱり冴えない。 「お醤油、どれくらいあったら足りる?」 「えーと、肉じゃが二人分だから・・・、このカップに一杯お願いしていいですか?」 「はいはい」  差し出された蓋付きのカップに醤油を注ぐ。 「里哉君は学校?」 「はい、転校してきたばっかりで心配してたんですけど、友達もちゃんとできたみたいで」 「親が心配しなくても、子供はしっかりやってるものよね」  ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ、吉沢の冴えない笑顔が固まった。
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