1 隣人

3/3
前へ
/19ページ
次へ
 ああ、しまった。失言だった。  『親子』ではないのだ、この二人は。  しかし、一瞬は一瞬、すぐにまた冴えない笑顔が戻ってくる。 「そうですね。子供っていうのは、強い・・・」 「時々、大人よりもね。はい、お醤油」  あたしは注ぎ終わったカップを吉沢に渡した。 「どうもありがとうございました」  来たときと同じようにペコペコして、吉沢は隣の部屋に戻っていった。  その夜、窓を伝う肉じゃがの香りと壁を通した里哉君の嬉しそうな声が、あたしの食欲を刺激した。  一度ぐらい、あの冴えない男が作った肉じゃがを食べてみたいかもしれない、なんて思った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加