1 隣人

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 新しい入居者が決まった。  小学生ぐらいの子供を連れた、眼鏡をかけた冴えない青年。 「よろしくお願いします」 「よろしくお願いしまーす!」  吉沢善人というその男は、冴えないという形容詞がスーツを着て眼鏡をかけたような男で、山尾里哉という少年は、元気が服を着て鼻の頭に絆創膏を貼ったようなやんちゃ坊主だった。  変人ばかりのアパートで、普通過ぎるほど普通なその二人は逆に異彩を放っていた。  個人としては普通過ぎるほど普通な割に、親子でも兄弟でもないらしい、名字の違う二人を詮索する者は誰もいなかった。  それぐらいのことを気にしていたら、このアパートではやっていけない。  変人なりに良いやつばかりなのと、新人がいい人過ぎるぐらいいい人なおかげで、一週間ほどが経つと、その二人にとってこのアパートはとても居心地のいい住処になったらしい。  隣人のあたしとしても、喜ばしいことだ。  吉沢という男は、あまり好みではないけれど。  好みというなら、里哉君の方が将来有望。あのまま成長したら、きっとあたし好みのワイルドな男になるだろう。  そんなことを考えていたある日。
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