664人が本棚に入れています
本棚に追加
春まだ浅い三月。
僕の住むこの町では、まだ雪が残っている。
この雪が溶けて、緑の大地が姿を見せるのは、四月を過ぎてからだ。
凍った路面に足を取られないように、慎重に歩を進めながら、首に巻いたマフラーを少し緩める。
「藤宮(とうみや)、とうとう合格発表の日だな。俺、緊張してきた」
僕の背中を軽く叩き、そう言ってきたのは親友の田口護(たぐちまもる)。
「護は合格圏内なんだから、大丈夫だよ。僕の方が不安」
「藤宮なら大丈夫だ。とにかく行こうぜ」
護に急かされて、僕達は受験を受けた高校へと足を運んだ。
掲示板の前には、早くも人だかりが出来ていて、皆、自分の受験番号と照らし合わせては、友人や家族と喜びあっている。
中にはダメだったのか、肩を落としている人、泣いている人の姿が目に映る。
僕はどっちの仲間入りをするんだろう……?
不安と期待が入り混じる中、僕は人波を掻き分け掲示板と向き合う。
「2105番は……と」
左から右へと移動しながら、僕は自分の番号を探す。
「あっ、あった……」
もう一度、受験票と見比べて小さくガッツポーズなんかしてみたり……。
この高校を第一志望にしていた僕は、滑り止めなんて受けていなかった。
もし落ちたりしたら、高校浪人が確定。
そんな事になったら、両親に何を言われるか分かったものじゃない。
恐らく家でやきもきしているであろう母に電話をして、合格した事を伝える。
最初のコメントを投稿しよう!