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翌朝、迎えにきた蒼馬と静馬と一緒に家を出た悠姫は、満員電車に乗った。
まずはこの通学に慣れなくては、と電車が揺れるたび押し潰されそうになりながら、悠姫は思う。
今朝のところは蒼馬と静馬に守られるように挟まれ、気分的に余裕を持てたが、いつひとりで登校することになるかわからない。
そういえば父も、日本の満員電車にだけは慣れることがなかった、と思い出す。
お父さんよりは日本人に近いし、わたしはきっと平気になるはず、と悠姫は自分を励ます。
駅に着き、電車から大勢の乗客とともに吐き出されると、悠姫は蒼馬と静馬の間をふらふらした。
蒼馬と静馬は、これはある意味、学校より危険だと思う。
ふらつく足取りもそうだが、もしも車内で痴漢にあったら、悠姫はどうするだろう。
無言でじっと我慢するような気がする。
悠姫をひとりで満員電車には乗せない。
過保護なふたりは、そう固く誓う。
「あれ、なんだろ」
学校が近づいてくると、校門付近に人だかりができているのを見つけ、悠姫はふしぎそうに言った。
「部の勧誘だな」
と蒼馬の言うとおり、三人が近づくと、三人のうち誰が目当てなのか、上級生らしき生徒たちが一気に群がってくる。
「蘇芳さん、ぜひうちの部に来てね」
と誰かが言って悠姫にチラシを渡すと、他の連中も「うちもうちも」と口々に言い出し、次々に悠姫にチラシを押し付けてくる。
悠姫が、どうして名前を知ってるんだろうと疑問に思う暇もない。
蒼馬と静馬は自分たちに差し出されるチラシを適当に受け取りながら、しかし何気ない様子で確実に、悠姫に近寄る男たちを押し退けて進んでいく。
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