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ようやく校舎にたどり着くと、
「なんかあのひとたち、わたしの名前知ってたみたいだけど、なんで?」
悠姫がのん気に言った。
「蒼馬なら新入生代表だったからわかるけど」
言いながら下駄箱を開けると、悠姫はそのまま立ち尽くした。
どうしたのかと、双子が覗き込むと、下駄箱の中も部の勧誘のチラシであふれている。
悠姫は手近の一枚を見る。
運動部の勧誘だ。
「……わたし、運動なんて苦手なのに」
「マネージャーだよ、マネージャー」
静馬が忌ま忌ましそうに言う。
蒼馬は悠姫の手からチラシを奪い、下駄箱の中のものもごっそり掴み出すと、そのままゴミ箱に放り込んだ。
「あ」
と悠姫が声を上げた。
「いいの捨てたりして。それに、もしかしたら入りたい部活とかあったかもしれないのに」
「いいんだよ」
蒼馬と静馬はそろって素っ気ない声を出すと、そのまま悠姫の教室までついてきた。
「どうしたの」
と訊ねる悠姫を無視して、ふたりは悠姫の机に手を突っ込んだ。
案の定、そこからも大量のチラシが出てきて、ふたりはそれら全てをぐしゃぐしゃに潰すと、またもやゴミ箱に放り込んだ。
「じゃあな悠姫」
「気をつけるんだぞ」
蒼馬と静馬はぶっきらぼうに言って、それぞれの教室に去っていった。
「すごい勧誘されてるみたいね」
と悠姫の前の席で笑ったのは、例の黒髪の少女だった。
悠姫は自分に話しかけてくれているとわかると、一瞬驚いてから急に嬉しくなり、
「そうみたい」
と笑って返した。
「あたしも結構もらったけど、あれほどじゃないな」
と彼女はつづけた。
「どうして名前知ってるんだろうね?」
「さあね。可愛い子、綺麗な子の情報は詳しいみたいよ」
「へえ……」
悠姫は、自分のことも易々とそこに分類できてしまう彼女に感心しつつ、やっぱりお母さんに似てる、と思う。
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