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バカは嫌いなのか、と悠姫は胸のうちでくり返してみる。
「じゃあ雅に嫌われないよう、頑張って勉強しなきゃ」
大まじめな様子で言う悠姫を見て、雅は愉快そうな笑い声を上げた。
授業の合間の休み時間、静馬は悠姫の教室の後ろ側のドアから、こっそり悠姫の様子を窺っていた。
ひとりでぽつんと座っているようだったら話しかけようと思っていたのだが、悠姫は前の席の少女と話していた。
黒髪の綺麗な子。
悠姫が言っていた子だろうとすぐにわかった。
確かに綺麗な顔立ちをしている。
悠姫とはまったくタイプが違うが。
「あれか、悠姫が昨日話してた女子」
背後で声がしてふり返ると、蒼馬がいた。
蒼馬も静馬と同じことを考えたようだ。
「ああ」
と、静馬は悠姫に視線を戻して言った。
「悠姫の表情は見えないけど、なかなかうまくやってるみたいだな」
「……そうだな」
蒼馬はわずかに目を細めて、悠姫と向かい合う女子を注視した。
悠姫の言ったとおり整った顔立ちだ。賢そうな目をしている。
状況判断に優れ、臨機応変に愛想よく立ち回るタイプ。
腹の底じゃ何を考えているかわからないタイプの女だ、と素早く評価する。
悠姫とは正反対の性格だろうが、そのほうが案外うまくいくのかもしれない。
悠姫は素直で、悪意や裏表や駆け引きとは縁遠い人間だし、あの女も腹の探り合いをしなくてすむから悠姫を選んだのか、と、つい深読みしてしまう。
悠姫が同性の友人を得て喜んでいるのなら、とりあえずはそれでよしとするか。
蒼馬はそう結論づけると、自分のクラスに引き返していった。
静馬も、ちょっとくらい悠姫と話がしたかったと思いながら、隣の教室に戻った。
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