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高校の入学式当日、悠姫はいつもより早めに目覚まし時計をセットしたが、それよりもさらに早く目が覚めた。
昨夜は意外にすんなり眠りにつけたものの、やはり緊張していたらしい。
窓を開けると、悠姫は一瞬身震いした。
早朝のせいか、風が冷たい。
肌寒い入学式になりそうだった。
ショールを羽織ってベランダに出て、東の空を眺めた。
こんなにも地平に近い太陽を見るのは久しぶりだった。
刻々と色を変えながら、朝焼けが広がっていく。
朝陽が街を照らしていく。
今日から高校生だ、と悠姫は改めて思った。
寝室の壁には、昨夜からずっと新しい制服がかかっている。
高校はセーラー服だ。
母に見せたかった、と思う。
母が生きていたら、仕事より、恋人との約束より優先して、出席してくれただろう。
着飾った母は、美しく若々しく、新入生の父兄であるにもかかわらず、母が主役みたいに人目をひいただろうと想像し、悠姫はちょっと笑った。
悠姫にとって、綺麗なひとは、美しいひとは、いつだって母だった。
アメリカにいた時もそうだったが、日本に来て周囲が黒髪の日本人だらけになっても、その想いは変わらなかった。
母の黒髪を受け継ぎたかった、と悠姫は久しぶりに感傷的になる。
あんなに早く逝ってしまったから、なおさらその想いはつのる。
太陽はすっかり地平から顔を出し、東の空の微妙な色合いも、美しいが単調な黄色みを帯びた輝きに変わっていた。
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