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霧生家を訪れると、出迎えてくれたのは父親だった。
すぐ出勤できるよう、きちんとスーツを着て、悠姫を待ち構えていたらしい。
「おはよう悠姫ちゃん」
満面の笑みで本当に嬉しそうにしてくれるから、悠姫も自然に微笑む。
双子の父は、
「おいお前たち、悠姫ちゃんが来たぞ」
と奥に向かって大きな声で言った。
すぐに蒼馬と静馬と母親が現れた。
一家総出の出迎えだ。
双子の父は早速カメラを悠姫に向けてまわし始めている。
「悠姫、ちょっと一回転してみな」
静馬が指をくるくるまわして言った。
悠姫は戸惑いながらも言われたとおりにする。
階段わきにもたれて、蒼馬がじっと悠姫を見ている。
悠姫は落ち着かない気分だったが、悠姫の全身を眺めた静馬は満足そうに頷いた。
蒼馬も、
「よく似合ってる」と言う。
悠姫はふたりの反応にほっとしながら、促されるまま家の奥に入っていった。
ダイニングには悠姫のぶんの朝ごはんも用意されていた。
悠姫は蒼馬の斜向かい、静馬の隣に腰かけると、ふたりの父親に向かって言った。
「……あの、いつまで撮ってるんですか」
蒼馬が悠姫の肩をもって「もう十分撮っただろ」と言うと、父親は残念そうにカメラを下ろした。
「朝ごはんのシーンも撮ろうと思ったのに」
とぶつぶつ呟いている。
悠姫は時々、ひょっとしてこの家のホームビデオは、実の息子である蒼馬や静馬より自分のほうが多く映っているのではないかと疑問に思う。
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