1、入学

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「お父さん、蒼馬と静馬のこともちゃんと撮ってくれたかな」 父親が出かけてしまうと悠姫は呟いた。 ふたりの母親は出かける支度中らしく、ダイニングには三人だけだった。 「そんなことより悠姫、ちゃんと朝ごはん食べろよ。入学早々保健室に運ばれたくないだろ」 と蒼馬が言い、静馬がごはんをよそってくれる。 温かいごはんと、焼き魚と卵焼き。 いいなあと悠姫は思う。 朝起きたら、当たり前みたいに誰かが作ってくれた朝食が出てくる生活。 ふだんはトーストをかじるくらいの悠姫は、家庭の食卓だ、と感動していた。 お母さんは朝ごはんを作ってくれて、お父さんは会社へ出かけていく。 きっとこれが日本の標準的な家庭なのだろう。 もしも今も自分に両親がいたらどんなふうだっただろうと、ちらと考える。 たとえ離婚せず円満な家庭がつづいていたとしても、あの父と母ではこうはいかなかったろうと思うとおかしかった。 母は低血圧で朝に弱かった上、家事はからっきしだったから、きっと一番遅くに起きてきて、父が出勤前に用意していってくれたごはんを、のろのろ食べるのだ。
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