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「お父さん、蒼馬と静馬のこともちゃんと撮ってくれたかな」
父親が出かけてしまうと悠姫は呟いた。
ふたりの母親は出かける支度中らしく、ダイニングには三人だけだった。
「そんなことより悠姫、ちゃんと朝ごはん食べろよ。入学早々保健室に運ばれたくないだろ」
と蒼馬が言い、静馬がごはんをよそってくれる。
温かいごはんと、焼き魚と卵焼き。
いいなあと悠姫は思う。
朝起きたら、当たり前みたいに誰かが作ってくれた朝食が出てくる生活。
ふだんはトーストをかじるくらいの悠姫は、家庭の食卓だ、と感動していた。
お母さんは朝ごはんを作ってくれて、お父さんは会社へ出かけていく。
きっとこれが日本の標準的な家庭なのだろう。
もしも今も自分に両親がいたらどんなふうだっただろうと、ちらと考える。
たとえ離婚せず円満な家庭がつづいていたとしても、あの父と母ではこうはいかなかったろうと思うとおかしかった。
母は低血圧で朝に弱かった上、家事はからっきしだったから、きっと一番遅くに起きてきて、父が出勤前に用意していってくれたごはんを、のろのろ食べるのだ。
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