試験開始日

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「おめでとうございます!」 「……は?」  玄関に出た俺は、この事態をよく理解できていなかった。 「ですから、あなたは日本国民の代表として選ばれたのです」 「国民の代表……えっと……新手の詐欺?」  スーツを着て髪の毛を七三に分けた男は、なんとも大袈裟に嘆いてみせた。 「おぉ! なんということでしょう! こんな名誉なことを詐欺とは……あぁ、嘆かわしいっ!」 「――ってか……あんた誰?」  訝(いぶか)しがる俺の様子を見て、男は慌てて胸ポケットから名刺を取り出した。 「これはこれは……私としたことが! 失礼いたしました。興奮のあまり名乗るのを忘れておりました」  両手で恭しく差し出された名刺を見つめる。  そこには 【大統領政策室第一秘書 渡邉久則】 と書いてあった。 「大統領政策……大統領!?」 「えぇ!」  男は両腕を広げ、わざとらしいほどに胸を張って言った。 「あなたもご存知でしょう! 日本が大統領制になって早一ヶ月。様々な新しい政策が、次々と繰り広げられているのを!」 「えぇ……まぁ……」 「そして今回! 先ほども申しましたように、あなたが選ばれたのです!」 「えっと……何に?」  俺の問いかけに対し、急に男は声をひそめ口に人差し指を立てた。 「ここからはご内密に……」  俺もつられて小声になる。 「……分かりました」 「今回施行されます新たな政策の、試験をしていただく三人の中のお一人に選ばれたのです」 「はぁ……なんだかよく分からないけど……で、政策って?」 「はい。それは【人殺し権】でございます」 「人……殺し?」 「えぇ。それは【人は死ぬまでに誰か一人だけ殺せ、それが罪にならない】という素晴らしい権利のことでございます」
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