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一ヶ月前に突如として現れた、自称【救世主】の若草吾郎。
彼は何の前触れも無く、この日本においてクーデターを起こし国会を乗っ取り、総理大臣は引きずり下ろされた。
日本の象徴である天皇も、国会には口を出せないと黙認してしまった。
そこから彼は、日本の政治を好きなように変えていった。
まだ20代前半の若草は、まず日本を大統領制に変え、自ら就任。
そして、信じられない政策を打ち出した。
最初に、喫煙年齢と飲酒年齢の下限を15歳に変更した。
これで若者の支持を掴んで勢いに乗ると、次に低所得者の年金掛け金の引き下げ、フリーターや日雇い労働者に対する月々の生活費補助制度等、一見まともに思えるが実はとんでもない法律を作りあげてしまった。
また高額納税層に取り入る工夫も怠らなかった。
彼等には金銭ではなく、ステータス部分――都道府県知事の地位を無条件に与えた。
これで彼に逆らうものは、ほとんどいなくなった。
ここからが彼の本領発揮である。
自分がメロン味のかき氷が嫌いという理由で、国内での販売を一切禁止した。
また、一輪車に乗れないからと全ての一輪車を廃棄処分、隠し持っていた小学生は補導され、拷問を受けた。
それでもなぜか支持率は下がることなく、まるで新興宗教の教祖のように崇め奉られ、いつしか自称【救世主】は皆にそう呼ばれるようになった。
その他にも首を傾げるような政策を次々と生みだし、そして今回の【人殺し権】だ。
「あの……お断りします……」
「はっ!? 今なんと!?」
渡邉はまたしても大袈裟に、右耳に手をあてて聞き返した。
「だから断るって。なんか面倒なことになりそうだし、俺来年受験だし……」
「おぉ!」
どこまでも大袈裟な彼は、次におでこに手をあてて天を仰ぎ見た。
「なんと愚かな……しかし! こんなこともあろうかと、若草様はちゃんと考えてらしたのですよ!」
「…………」
なんとも馬鹿馬鹿しくて、返事をする気にもならない。
「おや、お返事がないようでございますが……まぁ、よろしいでしょう。何とおっしゃられましょうが、あなたにこの権利を拒否する権限はございません」
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