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「……ってことは……」
「ということは……何だと思われます?」
腕を後ろに回し、身を乗り出して聞いてくる。
「断ったら……どうかなるとか?」
「はい。あなた様の命の保障はできかねます」
「……は? なに? 命?」
俺は自分の耳を疑った。
「おや、聞こえませんでしたでしょうか。お断りになられましたら、あなたのお命はございません」
「ございません……って、もしかして、俺あんたに殺されるのかっ!?」
「……あんた?」
渡邉は眉をピクリと動かし、抑揚の無い声で続けた。
「私は『あんた』という名ではありません。渡邉でございます」
「そっ……それは失礼。で、これを断ったら俺は渡邉さんに殺される――ってこと?」
七三のスーツ男は満足げな顔で
「いかにも、おっしゃるとおりでございます。私、渡邉が責任を持って、この手であなた様を殺害させていただきます」
と言った。
「ちょっと……質問してもいい?」
「何なりと」
目を閉じ、手の平を上にした右腕を胸の前に運び、礼をする。
「……貴族の執事か」
「は? 何か?」
「あ、いや。えっと……人を一人殺す権利で、それが罪に問われないんだったけ?」
「さようでございます」
渡邉が頷く。
「で、その法律が施行されるための実験台として、俺が選ばれた……と」
「――滝沢様」
彼は初めて俺の名を口にした。
「あなたは少々誤解してらっしゃるようでございます」
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