試験開始日

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     契約書  この度新制令を施行するにあたり、試験的にこれを行うこととする。  指揮命令官 甲(以下「甲」とする)は、被試験者 乙(以下「乙」とする)に対し、書面にてこれを通知し双方の同意をもって契約成立とする。  乙は次に定める規約を守り、違反した場合には、甲の定める処分に従うものとする。 第1条 乙は、この契約内容及び制令に関しての一切を他言してはならない。 第2条 乙は、自らに向けてこの権利を発動してはならない。 第3条 乙は、甲に対して直接関与してはならない。必要のある場合は、甲の立てる代理人を通じて申し入れすることとする。 第4条 期間は本日から十日間とする。 第5条 この契約は、甲により内容の変更や突然の破棄を余儀なくされることがある。その場合、乙は無条件でこれに従うこととする。  以上に同意し、署名捺印をもって契約が成立したと認める。 2025年8月1日 甲 住所 東京都×××   氏名 若草 吾郎 乙 ――――――――――――――― 「それではご署名を」  渡邉はペンを差し出した。 「ちょ……ちょっと待って!」 「はい。お待ちいたします。私はこう見えて、大変気が長うございます」  右手を胸にあてて斜めに頭を下げる。  こう見えてって……  しかし今は、敢えて突っ込まないことにした。 「なんだかごちゃごちゃ書いてあるけど……」 「恐れ入りますが滝沢様、この程度の文章が理解できないとおっしゃいますと、来年の受験は大変厳しいものになるかと思われ、私の心はいたたまれなく……」  先ほど眼鏡のレンズを拭いたチーフを再び取り出し、目頭を押さえる。 「ご……ご心配、どうも……」 「いえいえ。で、何かご不明な点でも? あっ! ちなみに、そこの第3条にあります代理人とは私、渡邉のことでございます!」  両腕を広げ胸を張る――誇らしいときのポーズが出た。  ――代理人がこのオーバーアクションの男  そんなこと改めて言われなくても分かってるんだけど……  俺は契約書の内容よりも、この秘書に突っ込むタイミングばかりを考えていた。
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