終わりを自覚した始まり

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「先生。私、死ぬんでしょ?」 私の一言に、カルテに向かい合っていた医者が顔を強張らせながらこちらを向いた。 まるで今日の予定を話すような気軽さに、逆に医者の方が動揺したらしい。 「何を言い出すんです、高木さん。死ぬなんて…」 「分かってるんです」 悲しそうに目を細めた医者に、私は無感情に言う。 「自分の身体の事くらい、自分で分かります。今年に入ってからの容態の悪化が目に見えて分かるんです」 まるで他人事みたいに話してるなと、心の中で自分を嘲笑した。 胸部に軽く手を添えると、弱々しい鼓動が感じられた。 私は産まれた時から、若くして死ぬと決まっていた。 心臓が極端に弱く、手術をしても今の医学では治すことは出来ないと言われた。 日に日に弱っていく心臓。 普通に他の子ができる事さえ至難の技。 他の子とは違うんだと理解していた。 そのせいか、自分は周りの人間に馴染めなかった。 無理に馴染もうとも思わなかったし、逆に拒絶していた。 世間からの同情の目が、かわいそうなんて言う世間からの評価が嫌いだったから。 お陰で親友はおろか、友達とまともに呼べる人間は1人もいない。 だからだろうか、生きる事に執着心が沸かないのは。 両親は私がまだ7歳の時に交通事故で他界した。 私を引き取ってくれた祖母も、2年前に病に倒れ、眠るようにこの世を去った。 肉親も居ない。 友達も居ない。 この世界にはもう、私を繋ぎ留める理由が無い。 黙り込んだ医者に、もう一度平淡な口調で聞く。 「私はあと、どのくらいで死にますか?」 医者がちらりと私の顔色を窺う(うかがう)ように一見した。 私の顔に絶望感も不安感も無いのが分かったのか、しっかりと向き直り真っ直ぐに目を見てきた。 部屋におかしな空気が張り詰める。 「…率直に言います」 一旦間を置いて、医者が重い口を開いた。 「長くて、あと10ヶ月でしょう」 そう宣告されて思いの外落ち着いている自分と、その私よりも緊張している医者が滑稽で、いっそ笑いが込み上げそうだった。 (遅かれ早かれ、人は死ぬ)
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