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電話の相手は、現在隼斗と遠距離恋愛中の彼女、花咲 柚子奈(はなさきゆずな)。
中学まで隼斗と同じ学校であったが、卒業と同時に引越してしまった彼女は現在、隼斗の住む大型の街より遥か北に位置する小型の街に住んでいる。
そんな柚子奈から毎晩欠かさずかかってくる電話が今の隼斗にやる気と気力を与えてくれていた。
隼斗はわざと電話越しにも聞こえるようにため息をつき、会話を再開させる。
「ゆー、一応言っとくけど、俺が見てないからって他の男と何かしたり……
『あれ?もしかして私の事疑ってるの?』
が、早々返ってきた少々刺のある柚子奈の声に、隼斗は黙らされる。
「……いえ、誤解を招くような発言、誠に失礼致しました」
『フフフ、もー!わかってるって!冗談だって、じょーだん!』
「……おまえの声たまに本気で怖いからやめてくれって……もうホントチクチクするから」
疲れと安堵によるため息がもう一度。
今度は意識していなかったが、電話の向こう側にもしっかり伝わったようで、柚子奈の笑い声が聞こえた。
今思えば、中学校はそれなりに楽しかったのかもしれない。
高校とは違った、気楽さの中で学生としての生活を送り、柚子奈や友達とも常に一緒で、今のように勉強についてうるさく言われない日々。
中学校に通っている間は全く気づかなかった。
勉強に縛られ、思うように自由を満喫できなくなった今になって、やっとわかった。
あの中学校で過ごした日々、それこそが“充実”というものなのだと。
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