世界

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『……っておーい、はーやとー!聞いてるー?』 隼斗からの返答がない。 その理由は何となく予想がついているが、柚子奈はひとまず呼んでみる。 が、やはり隼斗からの返事はない。 この時点で柚子奈は隼斗が何かに集中しだしてしまったのだと判断した。 柚子奈は、隼斗の昔からのクセを知っている。 何かを考え始めると、自分の中で、この答えで十分だ、と納得できる答えがでるまで隼斗はそれ以外の事をひたすら拒絶してしまうのだ。 お陰で、隼斗と長電話をしている時などでは、会話が途切れることが多々ある。 初めの頃は柚子奈も注意をしていたが、最近ではもう会話が途切れる事に慣れてしまい、隼斗に対して怒る事も少なくなった。 「今丁度テレビでそれやってるからちょっと見させて」 そして、もう今では急に会話を再開されても驚かなくなっていた。 『もー。だったら早くそう言ってくれればよかったのに。じゃあ、一旦電話切る?』 「いや、繋ぎっぱなしでいいよ」 その一言を境に再び、電話の向こう側、隼斗の部屋は静かになった。 隼斗の返事は先ほどのも含めて、早口で、あまり電話に興味がなさそうだな、と柚子奈は感じていた。 柚子奈はため息をつき、寝転んでいたベッドの枕元に転がっていたテレビのリモコンを手に取り、体を起こす。 隼斗は電話は繋ぎっぱなしていいと言ったが、正直に待っていても無駄に時間を過ごすだけだろう。 柚子奈はそう思い、隼斗からの返事があるまで暇を潰そうと、テレビの電源をつけ、チャンネルを回し始めた。
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