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今の隼斗には、テレビから聞こえてくるアナウンサーの声のみが耳に入っていた。
それ以外の音は聞いても聞き取る自信がない、いや、それ以外の音は全く聞かない自信がある、と言えるほどテレビに集中して聞いていた。
流れている内容は、今日起こったバイオテロについて。
アナウンサーの告げた内容、現場からの中継等を要約すると、それは柚子奈の住む街からそれほど離れていない、隼斗が住んでいるのとはまた別の、大きな街で起きたようだった。
犯人は既に捕まっている。
精神的に極限まで追い詰められた状態、精神崩壊状態に陥っているらしく、詳しい動機などはまだ聞きだせていないらしい。
だが、隼斗はなんとなくわかっていた。
犯人が犯行に及んだ、動機を。
その時思っていた事を。
どうせ、この犯行に動機なんて存在しない。
それが隼斗の答え。
そして、犯人の答え。
精神崩壊者。
この隼斗が住む時代では、精神的に極限まで追い詰められ、精神面が正常を保てなくなった人の事をそう呼ぶ。
精神崩壊という病気は、精神的な病気の中でも末期と言われるほど重度な精神病で、思ってもいない行動をしてしまったり、自分自身が何なのかわからなくなり自暴自棄に陥ってしまう、等の症状がみられるようになる。
効果的な治療方法は見つかっていない。
昔と比べれば、今の医学は確実に進歩している。
だが、それは医学の一部の分野に限ってでしかない。
人類は、目に見える傷やレントゲン等の科学的な方法で目に見えるようにできる病気のほとんどの治療法を見つけだしてきた。
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