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時折、気まぐれに吹く温(ヌル)い風が
お姉さんの髪を揺らす。
無臭に近いはずの空間に
優しい匂いがふわりふわりと
僕の中に入って来る。
お姉さんがハッとして
僕の腕を振りほどこうとした時に
セミの鳴き声よりも耳障りで
セミの鳴き声よりも煩いくらいの鼓動に
気付いてしまった。
「あっ…」
お姉さんが腕を振りほどく前に
僕からパッと手を離した。
「大丈夫ですか?」
ややうつ向いていて
帽子で見えないお姉さんの顔を
覗き込むようにして
僕は尋ねた。
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