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「すみません。中々、言い出しにいくて…」
将人は頭を下げ、申し訳なさそうな顔をしている。
「あんたらに、言うと変な気を使われそうだったからね」
奈津が口を挟む。
夢は、幾分落ち着きを取り戻したようだ。
「ばぁーか。そんなつもり更々ねぇよ。寧ろ、邪魔して…」
「はいはい」
こんな馬鹿みたいなやり取りも、あと少ししか出来ないと思うと、なんだか寂しくなってくる。
「拓斗君の言う通り、僕も【Select】には参加しません」
「もう決めたのか?」
「はい」
俺は、将人に問い掛ける。
しかし、将人は俺の問いに考える素振りも見せず即答した。
将人の瞳に迷いは微塵も感じられなかった。
「そっか…。でもいいのか?お前ん家の親は?」
「案の定、猛反対されて父には殴られました。でも、『守りたい人がいる』」
将人は、チラッと奈津の方を見る。
「そう言うと、渋々納得してくれました」
「ほぅ、お前がそんなこと言うとはな…。やるじゃないか」
俺は、将人の首を後ろから絞める。
「ちょっ、ちょっと!止めてくださいよ…」
将人は振りほどこうと必死にもがくが、拓斗の表情を見て手を止める。
「しっかり守ってやれよ…。あれっ、泣くつもりなんてないのに、涙が勝手に…」
俺は止めどなく流れる涙を、服の裾で拭う。
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