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そうして私と女はデパートで醤油と私のための着替えを買い、女の家に向かった。この時、支払いは全て女がした。私が店内に入ると水浸しで店に迷惑になると判断し、店内には入らなかったからだ。
女が戻ってきたので、私が自分の着替えの分は払うと申し出たのだが頑なに拒まれた。
私はそういった女の一挙手一投足が興味深かった。家に着けば、女はバスタオルを持ってきて、私の体を服の上から拭く。自分で出来ると言ってみたが、遠慮はいらないと返された。ある程度水分を拭い取った所で風呂場に通された。
嗚呼、やはり彼女は今までに私が付き合ってきた女性の誰とも似ていない。どれを取っても私には実に新しい。
風呂から上がると、女によってタグの取られていた服に着替えた。居間に戻ると食事が用意されていた為、すぐに帰る用事の無い私はご馳走になることにした。
女の住まいは築十数年のアパートで六畳二間キッチンユニットバス付き。聞いて確認した訳ではないが独り暮らしに間違いはないだろう。
ちゃぶ台の上に並ぶ料理は和洋折衷と品数多彩で、二人分にしては多かった。丁度向かい合う様に黒い箸と赤い箸が置かれている。おそらく黒の方が男性である私であろうと考え、そこに腰を下ろした。それを音で分かったらしく、台所に立って、こちらに背をむけている女はそのままの姿勢で貴方は先に食べていてくださいと言った。
この時私はささやかながら違和感を覚えていたのだが、そんな違和感を気に留めることはしなかった。
私は促されるままに箸を取る。そして最初に揚げ出し豆腐を口にした。実は私はこれがかなりの好物で、少なからず人並み以上のこだわりがある。そのために余所で食べる揚げ出し豆腐に対して一つ二つ気に入らない点を見つけてしまうのが常であった。だから幾分自分の好みとは違う(たがう)だろうなと思いながら口にしたのだ。
「……!」
予想外だ。素晴らしく美味しい。今日別れた彼女も料理は得意であったが、やはり汁のとろみが弱かったりしていたものだったから……
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