梅雨入り

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 続けざまに箸を動かす。口にする物口にする物、どれも私の舌と実に相性が良い。  私が思わぬ良き味に舌鼓を打っていると女が一升瓶を抱えてやってきた。そして酒瓶をテーブルの傍らに置いて再び台所に戻り、盆にグラスを2つ乗せて持ってくると、赤い箸の前に腰を下ろす。グラスは切り子ガラスのもので、竹の模様があしらわれていた。それが実に涼しげな雰囲気を醸している。酒は清酒で口はまだ開いていないようだった。  女は封を切り、グラスの七分目まで酒を注ぐ。それを私に両手で差し出し、勧めた。  私はそれを受け取ると一口だけぐいと飲んだ。透き通った辛口である。普段機会に恵まれず、酒とは縁遠い私でも余程良い酒なのだろうと推測できた。 「どうですか? 料理の方は貴方の口に合いますか?」 「ああ、とても」  グラスの中身を飲み干す。そうしてから料理に手を伸ばし、次々と胃に納めていった。気付くとグラスに酒が注がれていたので、私はそれを煽った。女は仕切りにこちらの様子を気にしながら自分は自分で箸を動かし、酒も舐める程度ではあるが飲んでいた。  女の身の上話を食事の合間合間に聞くことが出来た。女の父は医師で、母は市の教育長。所謂(いわゆる)エリートというものであった。その両親のプライドや自尊心が強いのは想像に難くなく、例のごとく女には英才教育が施された。また、女の両親には選民意識でもあったのだろう。周りの子供達との触れ合いを極端に嫌っていたそうだ。子供同士のコミュニティに混ざったことが無いのだろうという私の予想は当たっていたようだ。  そして両親はよく『人に必要とされる人間になれ』と口を酸っぱくして言い、また必要とされない人間は人ではないと否定的な意見も述べていたそうだ。
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