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「いい加減にしてくれませんか?
私は、あなたなんて知りませんし、会った覚えもありません」
シアリスは若干苛立ちながらも、目の前の怪しい男にきつく言い放った。
「我を……知らない――……?」
シアリスの言い放った「知らない」という言葉に、男はぴくりと反応した。
シアリスは訝しんだが、男が自分の話をやっと聞いたので、更に言葉を続けた。
「……私は、あなたとは初対面です」
きっぱりと言い切るシアリスに、男の紫紺の瞳が悲しげに揺らいだ。
「シアリス、本当に……我を知らぬのか………!」
男はそう言うと、一気にシアリスとの距離を縮め、近付いた。
「!」
シアリスは自然と構え、男は、そんなシアリスに、徐に手を伸ばした。
しかし、パシリという乾いた音が辺りに響き、男の手が弾かれた。
「何故……」
男は行き場を失った手を戻すと、静かに瞼を下ろし、苦しげに顔を歪めて呟いた。
シアリスは、先程もそうだがこの男はなぜ自分の名前を知っているのだろうと、疑問に思った。
そして、男の手を叩いてしまったことも、今の様子を見て、どうしてか胸が締め付けられた。
「……家に、来ませんか?
この森は、今の時間帯は危険なので………それに、助けていただいたお礼もしたいので」
重苦しい沈黙を破るように、シアリスは淡々とそう男に告げた。
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