第1夜 月夜の晩に

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「いい加減にしてくれませんか? 私は、あなたなんて知りませんし、会った覚えもありません」  シアリスは若干苛立ちながらも、目の前の怪しい男にきつく言い放った。 「我を……知らない――……?」  シアリスの言い放った「知らない」という言葉に、男はぴくりと反応した。  シアリスは訝しんだが、男が自分の話をやっと聞いたので、更に言葉を続けた。 「……私は、あなたとは初対面です」  きっぱりと言い切るシアリスに、男の紫紺の瞳が悲しげに揺らいだ。 「シアリス、本当に……我を知らぬのか………!」  男はそう言うと、一気にシアリスとの距離を縮め、近付いた。 「!」  シアリスは自然と構え、男は、そんなシアリスに、徐に手を伸ばした。  しかし、パシリという乾いた音が辺りに響き、男の手が弾かれた。 「何故……」  男は行き場を失った手を戻すと、静かに瞼を下ろし、苦しげに顔を歪めて呟いた。  シアリスは、先程もそうだがこの男はなぜ自分の名前を知っているのだろうと、疑問に思った。  そして、男の手を叩いてしまったことも、今の様子を見て、どうしてか胸が締め付けられた。 「……家に、来ませんか? この森は、今の時間帯は危険なので………それに、助けていただいたお礼もしたいので」  重苦しい沈黙を破るように、シアリスは淡々とそう男に告げた。
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