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暫くして――、シアリスの家の前に着くと、男はまたしても動かなくなった。
じっと、感情の伺えないような、そんな視線をシアリスの家へと向けていた。
ここまで来る途中にも、男は立ち止まり、同じような視線を周囲へと彷徨わせていたのだ。
「……珍しいですか?」
シアリスは、不思議そうに首を傾げながら男へ言葉を投げ掛け、自分もそれに倣う形で我が家を見た。
「!、すまないな……ここへ来ると、思い出さずにはいられないのだ………」
男はシアリスの言葉に大袈裟に反応して見せ、視線をシアリスへと移すと苦笑混じりに答えた。
「私も……、私も思い出します…………父と母が死んでしまった時の事を――………」
シアリスは、視線を動かさないまま、特に感情の籠もらない声でぽつりと呟いた。
「……辛くはないのか?」
その男の言葉に、シアリスは動かさないままの視線を男へと向けた。
そして、軽く首を振ると寂しそうな、哀しい表情をその顔へ浮かべた。
「慣れました……今は、もう………」
瞬間、体を引っ張られたかと思うと、シアリスは男の腕の中へすっぽりと収まっていた。
「我は、最低だな……そのような顔を、お前にさせた………」
シアリスは男の腕の中で大きく目を見開き、顔を上へ向けるとまじまじと男の顔を凝視した。
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