第1夜 月夜の晩に

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 暫くして――、シアリスの家の前に着くと、男はまたしても動かなくなった。  じっと、感情の伺えないような、そんな視線をシアリスの家へと向けていた。  ここまで来る途中にも、男は立ち止まり、同じような視線を周囲へと彷徨わせていたのだ。 「……珍しいですか?」  シアリスは、不思議そうに首を傾げながら男へ言葉を投げ掛け、自分もそれに倣う形で我が家を見た。 「!、すまないな……ここへ来ると、思い出さずにはいられないのだ………」  男はシアリスの言葉に大袈裟に反応して見せ、視線をシアリスへと移すと苦笑混じりに答えた。 「私も……、私も思い出します…………父と母が死んでしまった時の事を――………」  シアリスは、視線を動かさないまま、特に感情の籠もらない声でぽつりと呟いた。 「……辛くはないのか?」  その男の言葉に、シアリスは動かさないままの視線を男へと向けた。  そして、軽く首を振ると寂しそうな、哀しい表情をその顔へ浮かべた。 「慣れました……今は、もう………」  瞬間、体を引っ張られたかと思うと、シアリスは男の腕の中へすっぽりと収まっていた。 「我は、最低だな……そのような顔を、お前にさせた………」  シアリスは男の腕の中で大きく目を見開き、顔を上へ向けるとまじまじと男の顔を凝視した。
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