空にいる君へ

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廊下を怒られない程度の速さで歩き(半ば走りながら)、一室の病室のドアに手をかけ、開く。 「海渡!」 病室の窓際にはベットが一つだけあった。一人部屋の個室。 そのベットの上には小柄な身体をしたやつが上半身を起こし、座っていた。 そいつはいきなり入ってきた俺達を待っていたかのように柔和な笑みを浮かべる。 「遅かったね」 「けいおばさんに捕まりかけたんだよ。大輔には悪いがイケニエになって貰ったけどな」 「それは災難だったね、じゃあ大輔がくるまで時間がかかるじゃん」 「おばさんの話長いもんね」 ベットの上にいるこいつ。 こいつの名前は相良海渡(さがらかいと)、俺の幼なじみで大事な親友だ。 とある病気で入退院を繰り返している。 その病名はウェルナー症候群。 なんでも通常よりも細胞の分裂が急激に早くなる病気らしい。 それが意味するのはつまり人より早く歳をとってしまうという事だ。 その証拠に海渡の肌は皺くちゃで髪は真っ白の白髪。今はニット帽をかぶっているのでその白髪は確認できない。 水城は小走りにベットまで駆け寄っていく。 丁寧に椅子を三つ取り出し、並べていく。 自分のと俺のと大輔のだろう。 「ありがと、水城」 「どういたしまして」 水城は芝居っぽくお辞儀をする。まるでウェイトレスか何かのようだ。 「あれ?」 海渡は水城を見て首を傾げる。 「水城髪型変えた?」 「海渡分かるの!?」 水城は驚いたように声をあげるが俺はもっと驚いている。 髪型変えたって…… 全然分からん。 「さすが海渡だね!健吾や大輔は全然言ってくれなかったんだよ?」 「ハハハ、二人共気付いてるよ。ね?健吾」 「え?ん、ああ!もちろんだろ?」 「ふーん」 海渡……ありがとう!恩にきる! 「ハハハ」 海渡は楽しそうに笑う。 皺だらけの顔をさらに皺くちゃにして。 俺はその笑顔が眩しく見えた。
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