クリスマス

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芹那はまだ、ソロでの大きなライブ経験がない。 20曲以上一人でステージで歌ったことがない。 いつか来る初ライブのために、少しでもいいところを吸収したいという思いでいっぱいだった。 そして達哉がボーカリストとして最も才能を発揮するのがライブだ。 27歳とまだまだ若いのだが、世界中から注目を浴び、人気を得ている。 ルックスは勿論だが、歌唱力が群を抜いている。 少しでも達哉に近づきたい。 激しい曲でもバラードでも、全てを達哉の世界に染めてしまう歌。 芹那は自分の小ささを実感した。 プラチナを取ったのは通過点でしかなかった。 こんなに身近に一流のアーティストがいる。 心の距離がが近づいて、達哉に全てが近づいたつもりで居たが、歌だけは近づくことができていない。 まだデビューして一年経っていないのだから、仕方ないとわかっていても悔しい。 そして達哉の才能に嫉妬もする。 あたしもうまくなりたい。 誰よりもうまくなりたい。 もっと歌いたい。 もっと練習したい。 達哉さんが、日本が、世界が認めてくれるアーティストになりたい。 ポップな曲が流れる中、いつの間にか芹那の頬を涙が伝っていた。 西川だけはその涙の意味がわかっていた。
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