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「そんなに考え込むなよ。それはそれで、いい味になってるんだよ。だからメンバーも、何も言わなかったんじゃないか?」
「うん・・・」
いい味になっているのかどうかは、正直わからないけれど、現時点での最高を詰め込んだ、満足できる作品になったのは間違いない。
何度もアルバムを聴いたが、自分では違和感を感じなかったし、メンバーもスタッフも何も言わなかった。
「今までにも攻撃的な曲はたくさんあったけど、その時は達哉が先陣を切って攻撃してたと思うんだ」
「確かに」
メンバーも、今回のアルバムは激しすぎだ、速すぎだっていつも以上に大変そうだった。
もちろん作曲やアレンジをした俺も、大変だった。
「でも、今回のアルバムは、雪夜くんのギターが矢のように飛んでくる」
そう。
レコーディング中は、雪夜の気合いが物凄かった。
その気合いと技術を更に磨いて、ツアーに持ってきている。
ツアーの最中も、進化し続けている。
あれは、雪夜のためのアルバムだと言っても過言ではない。
だからといって、達哉はもちろん、他のメンバーは少しも遠慮したつもりはない。
「悪い意味で言ったんじゃないよ。ごめんな、達哉。攻撃するべきところはしている。でも、楽器の音を包み込むような声だったり、一歩引いたところからギターを鳴らしている所があって、いつもの達哉と違うなって感じた。いつもなら張り合っているはずの達哉が。大人になったな、何かあったのかなって思うだろ?俺くらい聴き込んで、本人にも会ってるオッサンにしてみたら」
一歩引いて、ギターを弾いたつもりはないが・・・
きっと、その方がいいと自然に判断して、そう弾いていたのだろう。
部屋に戻ったら、もう一度アルバムを聴いてみよう。
シンプルなのに、美しいグラス。
達哉は、ロックグラスの底に残った、ウィスキーを飲み干した。
カラン。と、氷が優しい音を奏でる。
「成長したんだよ。ミュージシャンとしても、人としても。俺は今日会って、改めてそう思ったよ」
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