二度目の夏

19/36
前へ
/740ページ
次へ
芹那は、最初のギターソロからの1曲目の展開に心を奪われ、その後もずっとステージやモニターから目を離せずにいた。 英詞をさらりと歌いこなし、ギターで雪夜と複雑に絡み、ステージに笑顔を向ける。 ギターを降ろすと、ボーカリストとしての本領を発揮する。 広い音域と、艶のある声。 マイクスタンドを女性に見立てて、優しく色っぽく触れる姿に、心臓が反応する。 少し首を傾げて、甘いフレーズを囁くように歌う。 鋭い目線や、自信に満ち溢れた表情。 女性を堕とす、悪魔の微笑み。 会場にいる全ての女性の視線が、達哉に集まっているに違いない。 ステージが一瞬暗くなり、曲調ががらりと変わると、メンバーは花道へ出て再びファンを煽る。 達哉は無言で花道の一番前まで歩いていく。 先端に立つと、歓声や悲鳴が上がる。 立っているだけで、美しい。 そして達哉が纏うオーラは、色がついているかのよう。 圧倒的な存在感。 滴る汗、乱れた長い髪、少し崩れてきたメイク。 アシンメトリーで少し変わったデザインの白いシャツに、黒いパンツというシンプルな衣装が、さらに達哉の色気を引き出す。 少し広めに開いた胸には、細いチェーンに小さめのペンダントトップがついているだけ。 指輪はいつもと変わらず、ゴツゴツといくつも重なっている。 そんな指輪だらけの手にマイクを持っているが、わざと使わずに、手や顎でファンを煽る。 そして、ぐるりと客席を見回す。 両手を耳に当てて、声を聴かせろと合図する。 達哉を呼ぶ声が大きくなる。 満足する大きさでなければ、首を傾げ、何度も呼ばせる。 もちろん、他のメンバーの名前を呼ばせることもある。 それを、3本の花道全てで繰り返す。
/740ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1818人が本棚に入れています
本棚に追加