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「どうしたの、芹那。無口すぎない?」
・・・だって、言葉を発したら、きっとまた泣いてしまうから。
弱気なことを、たくさん言ってしまいそうだから。
あのライブの、間違いなく中心にいた人が、今ここにいる。
あたしの目の前に座って、あたしの両手を握っている。
会いたかったって、言ってくれた。
本当に、あたしに会いたかったのかなって。
あんなにすごい実力があって、人気もあって、美しくて・・・魅力的な人が、本当にあたしなんかに会いたかったのかなって。
ライブを観たら、不安になってしまって。
「また、何かくだらないこと考えてたんでしょ」
あたしがこういう不安を口にすると、達哉さんは、くだらないと笑う。
俺たちは付き合ってるんだから、堂々としてろって。
「俺もツアー中、くだらないこと考えたよ」
驚いた表情で、芹那は達哉を見る。
「だけど、こうして芹那がこの部屋に来てくれて、泣くのを必死に我慢しながらくだらないこと考えてたんだろうなって思ったら、やっぱり俺が考えてたこともくだらないんだなって」
「・・・どういうこと?」
「やっぱり芹那には伝わらなかったか」
達哉は苦笑いした。
「こういうこと」
達哉はイスから乗り出し、芹那をきつく抱きしめる。
「シャワー浴びてなくて、Tシャツ着替えただけだから、汗だくだけど」
汗の匂いに混ざって、ほんのりと香水が香る。
「1ヶ月近く会えないとか、拷問にも程がある」
「だって、達哉さんが忙しいから」
「それは認める。確かに忙しかった。ごめんな」
謝られると、なんだか複雑な気持ちになる。
「芹那もけっこう忙しかっただろ?」
「うん」
確かに、忙しかった。
レッスン、フェス、歌番組の特番、取材、撮影・・・
「達哉さんほどじゃないけどね」
「ごめんって。しばらくは東京にいるから。時間作るから、ゆっくりしよう」
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