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数日後、芹那は、テツのホテルのいつもの部屋にいた。
達哉としばらく会っていなかったし、ツアー中は達哉の部屋で会ったから、この風景がすごく久しぶりに感じる。
8月末の午後。
エアコンの効いた部屋で、仕事で遅れる達哉を待つ。
ツアーファイナルで会ってから、10日ほど経っただろうか。
あの時は、20分くらいしか一緒に居られなかった。
その前に会ったのは、達哉の部屋。
あれは、いつだっただろう。
最後に体を重ねたのは、いつだっただろう。
ゆっくりと一緒にいられるのが久しぶりすぎて、緊張してしまう。
今日は、どんな服だろう。
マナーモードのスマホが、着信を知らせる。
開いてみると、凪からのメッセージだった。
メッセージを開かずに、スマホを閉じた。
インターホンが鳴り、ドアが開く音がした。
足音が近付いてくると、芹那の心臓の鼓動が早くなる。
「遅くなってごめん」
白いシャツを着て、優しく微笑む達哉が、そこにいた。
急いで歩いてきたのだろう、少し髪が乱れている。
芹那の大好きな、シャツ姿の達哉。
今すぐに抱きつきたいくらい会えて嬉しいのに、緊張でひとことも出てこない。
ううん、大丈夫だよという意味をこめて、首を横に振る。
達哉は、すぐに芹那の異変に気付く。
「どうしたの、どうせ緊張してるとかそんなんだろ?」
クスクス笑いながら、冷蔵庫からミネラルウォーターを出す。
キャップを開けながら、芹那の隣に座る。
ソファーが、達哉の体重でふわっと揺れる。
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