《Metal market》―〈小さき者の侮り〉

3/20
前へ
/500ページ
次へ
沙織はそれを気にしつつも視線を下に向け、掃除を再開するが…すぐにその女に声をかけられる。 「ねぇ、ちょっといい?」 その言葉に再び沙織は反射的に顔を上げ、反射的にはい?と呟く。 「煉獄探偵事務所ってここでいいの?」 「え…はい、そうですけど…あの…うちに何か、」 「そう、分かった…じゃあ」 女はそれだけ言うとさっさとビルの入口に向かい、階段を上り始める…沙織の言葉はすべて無視した上である。 「あ、ちょっと!」 沙織は慌てて箒とちりとりを隅っこに置くと、上っていく女を追って自らも上る。 そして沙織がすぐ女に追いつくと、女は背中を向けたまま問いかける。 「何よ?掃除しなくていいの?」 「いえその、うちの事務所に何の用なのかなって…」 沙織が問いに問いで返すと、女は呆れたようにため息をつく。 「あのさ、私が新聞配達員に見える?どう見ても依頼人にしか見えないじゃない?」 …どう見てもというのはいささか語弊があるが、だが沙織は相手に調子を合わせるべくそこを敢えて言わない。 「そうですか…ではどんな依頼で、」 「あのさ?」 女は沙織の言葉を遮ると顔だけを沙織に向け、少々高圧的な口調で言い放つ。 「別にアンタみたいな見習いに話しに来た訳じゃないんだからね?余計な詮索は依頼人には不要じゃないの?」 沙織は女の物言いに怒りを覚えたが、一理あるのも確かだった。 「…すいません」 だから沙織が仕方なく頭を下げると、女は再びため息をつく。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加