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沙織はそれを気にしつつも視線を下に向け、掃除を再開するが…すぐにその女に声をかけられる。
「ねぇ、ちょっといい?」
その言葉に再び沙織は反射的に顔を上げ、反射的にはい?と呟く。
「煉獄探偵事務所ってここでいいの?」
「え…はい、そうですけど…あの…うちに何か、」
「そう、分かった…じゃあ」
女はそれだけ言うとさっさとビルの入口に向かい、階段を上り始める…沙織の言葉はすべて無視した上である。
「あ、ちょっと!」
沙織は慌てて箒とちりとりを隅っこに置くと、上っていく女を追って自らも上る。
そして沙織がすぐ女に追いつくと、女は背中を向けたまま問いかける。
「何よ?掃除しなくていいの?」
「いえその、うちの事務所に何の用なのかなって…」
沙織が問いに問いで返すと、女は呆れたようにため息をつく。
「あのさ、私が新聞配達員に見える?どう見ても依頼人にしか見えないじゃない?」
…どう見てもというのはいささか語弊があるが、だが沙織は相手に調子を合わせるべくそこを敢えて言わない。
「そうですか…ではどんな依頼で、」
「あのさ?」
女は沙織の言葉を遮ると顔だけを沙織に向け、少々高圧的な口調で言い放つ。
「別にアンタみたいな見習いに話しに来た訳じゃないんだからね?余計な詮索は依頼人には不要じゃないの?」
沙織は女の物言いに怒りを覚えたが、一理あるのも確かだった。
「…すいません」
だから沙織が仕方なく頭を下げると、女は再びため息をつく。
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