二人だけのベタな夜

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……俺、映画の後半の内容覚えてねぇ。 ずっと咲にしがみつかれてたせいで、もうメンタル的にノックアウト寸前だ。 もう映画は終わったというのに、咲はまだ俺にしがみついている。 春馬『……咲さん?映画終わったよ?』 とりあえず俺は遠慮がちに咲に声をかける。 そしてもう映画が終了したことを告げる。 春馬『……あと……腕、離してくれます?』 最後に、状況からの解放を訴えた。 咲は一度俺を見上げ、2、3瞬きする。 涙目で上目遣いとかいう、咲らしからぬあざといその仕草が新鮮でーー 咲『――キャァァァっ!!』 そんな咲の悲鳴と、パッチーンと奇麗なビンタの音が聞こえた。 そのビンタは俺の頬に放たれたもので、その衝撃で床へなだれ落ちる。 ……あれ、何で俺ビンタされたの? 春馬『ちょっとまてぇい!?なんで君が被害者面!?被害者は誰!?それは俺!!』 咲『うるさい!!ほんとうるさい!!』 あっれ会話が成り立たない!! しかもめちゃくちゃビンタされたとこ痛い!! おかしい、俺は頑張って耐えてた側なんだけど!? 咲『最低!!ヘンタイっ!!』 春馬『おいコラァ!!??どっちが悪いかもう一度考えてみろ!!??』 咲『うるさい!!近寄らないでっ!!』 咲へと無実の主張の為に近寄ると、それすら拒絶するように咲は俺から距離をとる。 めっちゃムカつく。 春馬『…あぁそうですか!はいはいわかりましたよ!』 俺は自分の部屋に戻ろうとした。 もうこの人何言ってもダメだ。 興奮でさっきの恐怖を忘れてしまっている。 だから。 春馬『…幽霊が出るまえに早く寝よ~っと……』 ……だから俺は、さっきの恐怖を思い出させてあげることにしたのだった。 すると咲は怒りの形相からみるみるうちに顔を青ざめ、ガタガタと肩を揺らし出す。 咲『ゆ…幽霊なんか出るわけないじゃないっ!!』 春馬『どうだろなぁ~~?俺にはわかんねぇなぁ~~?』 俺はそう言い残し、さっさと洗面所に行った。 コイツはこのまま放置してもう寝よう。 咲『…幽霊なんか……いないよね…?』 俺が歯を磨いてると、わざわざ俺の側まで来た咲がボソッと言う。 めっちゃ怖がってんじゃん。 さっきの怒りのパワーは全てホラーの方へ流れていったみたいだ。 春馬『……知ってる?幽霊って幽霊の話して怖がってるところに寄ってくるらしいよ?』 咲『え…!?ちょっ、ホント!?』 歯磨きを終え、そこで震える咲を放置して洗面所をあとにする。 たまにはそういう小動物系のキャラで一夜を過ごすといいさ。 俺はあの理不尽な暴力の仕返ししてるだけだ。悪くないし悪意もない! ……悪意はあるか!
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