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「ぷはっ、お望み通りのキスなのだが……どうなのだ?」
「……最高っす」
互いに照れくさくて俺たちは手を繋いだまま、黙り込んでしまう。
不意に舞い降りた沈黙。
ただ、繋がった手の温もりは言葉以上に心を……想いを相手に伝えてくれる気がする。
「……帰るか?」
「うむ、帰るのだ」
そっと俺たちは小高い丘の上にそびえる桜の木から離れ、どこか去りがたい気持ちを抱えたまま歩きだした。
月夜に照らされ、二人の陰が寄り添うように伸びる。
きっと俺も森羅も同じ想いを抱いている筈だ。
また明日……今日という日が終わっても俺たちはずっと一緒にいような?
願いはどこまでも高く、誓いはどこまでも果てしなく、そして……約束はいつだって傍らにあり続ける。
そうですよね?
桜花さん……
『もちろんだね』
不意に森羅のものとは違う桜の香りと、囁くような優しい声が風に乗って運ばれる。
『大丈夫だよ。 君なら森羅ちゃんも大切な人たちもきっと幸せに出来るよ』
俺は歩みを止めて去ったばかり丘の上の桜を眺めた。
それは目の錯覚なのだろう。
でも、俺の瞳には大輪の花を咲かせた桜を背景に微笑む森羅によく似た女性の姿が映っていた。
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