23478人が本棚に入れています
本棚に追加
「へっ、さっき挨拶代わりだって言わなかったか?」
俺の言葉にアリスは小柄な体をより一層小さく縮めて、人差し指でベッドの上に『の』の字を書き始めた。
俯き加減で表情は伺えないが、白磁のようにきめ細かく美しい肌がうっすらと朱に染まっている。
「パパに言われたの……『唇で交わすキスは特別な人に捧げるもの』だって……」
「あの人もたまには親らしいことするのか……って、特別?」
「……(カァーーー)」
正真正銘プチトマトの出来上がり……じゃなくて、アリスは頬を押さえながら真っ赤になってしまった。
「ジュンヤパパとねぇ様が幸せになってくれて……僕、嬉しいよ。 でも、胸がきゅ~って苦しくて僕もパパと……キスしたくなっちゃった……」
どうやらアリスは俺と森羅が付き合うことで、己の中で芽生えた感情にようやく気付けたらしい。
うむぅ~嬉しいけど……複雑な気分だよな。
アリスは純粋無垢な奴だ。
そんなアリスの無垢な心に俺が住み着いてるのは光栄なのだが、俺には森羅という心に決めた人がいる。
「ごめん、嬉しいけどさ……アリスの気持ちには応えられない」
それが俺の本心。
今まで優柔不断に心が動いていたが、俺の想いは既に固まっている。
だから、アリスを傷つけるしか……
「うん、知ってるよ……僕はジュンヤの隣でねぇ様たちの笑顔が見れてれば十分だよ」
なんて愚かなんだ俺は。
アリスは傷ついてなんていない。
そもそも俺が思っていたよりもアリスは弱くなかった。
最初のコメントを投稿しよう!